【2023年版】痛んだ心に寄り添う、USオルタナティブ女性シンガーソングライター4選

Music

SNSの普及によって多様化し続けるアメリカの音楽シーン。

誰が台頭してくるか予測がつかないスリリングな環境の中で、女性シンガーソングライターの活躍が目覚ましい。LGBTQやメンタリティなど、誰しもが抱える問題にフォーカスしたその楽曲制作スタイルは、年代を超えて多くの人の胸を打つ。

今回の記事では、今だからこそ聴いてほしい4名の女性アーティストを紹介する。

Snail Mail

2015年に、ボーカルとギターを務めるリンジー・ジョーダンを中心に結成。2018年に発表したデビューアルバム『Lush』が注目を集め、USインディを牽引する存在となった。

90年代を彷彿とさせるサウンドだけでなく、その歌詞にも魅力が詰まっている。LGBTQであることをオープンにしているリンジーは、恋愛経験を経て変化していく繊細かつ強烈な自身の心情を、赤裸々に歌詞に落とし込む。

クィア性を商業的なコンテンツにはしたくないと語るリンジー。ひとりの人間として真っすぐに楽曲制作に取り組む彼女だからこそ、多くの人に支持されるのだろう。

Valentine(2021)

ビジュアルでも多くの注目を集めるリンジーのルックス、中世を思わせる衣装。何より、リンジーの鬼気迫る演技も見どころのひとつだ。ビリー・アイリッシュにも通じるメランコリックな世界観に病みつきになること間違いなし。

Mitsuki

NYを拠点に活動する日系アメリカ人シンガーソングライター。18歳でアメリカに定住するまでは、日本、コンゴ、チェコ、マレーシアなどを往来していたため、無国籍なサウンドが特徴的だ。

2013年にファースト・アルバム『Lush』を発表し、その後もインディーレーベルから多くのタイトルを発表し続けている。

特筆すべきは、それらのタイトルに関わる演奏やミキシング、マスタリング、ジャケットデザインに至るまで、全ての工程を友人であるパトリック・ハイランドと2人で行っているという点だろう。

Nobody(2018)

“Nobody, Nobody……” と繰り返すサビを聴けばわかる通り、Mitsukiが感じる孤独をテーマとした一曲。誰もが孤独だと感じるこの世界で、せめて一緒に孤独であれば寂しくないのではという一節が心に沁み入る。聴く人によって様々に解釈される歌詞の奥深さが、Mitsukiの表現力の幅の広さを感じさせる。

My Love Mine All Mine(2023)

不安定に積み重ねられた椅子の上に登っていくMVの演出と、「私の愛は全て私のもの」というメッセージのズレは、皆が抱えている不安をよく表している。Mitsukiの心象表現は決して甘ったるくなく、しかし聴く人にそっと寄り添う。『Be the Cowboy』を発表した後、心身ともに擦り減ってしまい療養に入らざるを得なかったMitsuki。自らの心と対峙したことで、アーティストとして更なる深みを増した楽曲であると言える。

Clairo

1998年生まれ。2017年にトランスジェンダー法律センターのインディー・ロック・コンピレーションのために制作した楽曲動画『Pretty Girl』が注目を集め、その再生回数は9000万回に上る。自宅にあるキーボードをメインにしたシンプルなサウンドと、Clairoが歌う姿を映した画質の粗いビデオは、どこか懐かしさを感じさせる。

2021年に発表した2ndアルバム『Sling』では、パンデミック中に向き合った自身の葛藤や経験を楽曲に落とし込む。20代のみずみずしい感性の変化を追う楽しみを感じさせてくれるアーティストだ。

Pretty Girl(2017)

システマティックなベースサウンドの上に、Clairoの幼さの残る歌声。最先端とは言えない機材で制作されたビデオが、懐かしさとアンニュイな雰囲気を醸す。「懐かしいけれど、古くない」を実現するアーティストは、間違いなく稀有な存在だ。

Priscilla Ahn

L.A.を拠点に活動するシンガーソングライターであり、マルチ・インストゥルメンタル・プレイヤー。日本での活動機会も多く、スタジオジブリ制作『思い出のマーニー』での楽曲制作が記憶に新しい。

16歳から地元ペンシルベニアのコーヒーショップで弾き語りを始め、L.A.に移ってからはウェイトレスとして働きながら音楽活動を始める。2008年に『A Good Day』でメジャーデビュー。耳に優しい旋律と、透明感のある歌声は、インディーロックやフォークなどの様々なジャンルからの影響を受けたものである。

2012年発表のアルバム『ナチュラルカラーズ』や、2023年には森山直太朗が作詞・作曲を手がけたシングル『さよならアモル』を制作するなど、日本での活動に引き続き期待が募る。

Dream(2008)

Priscilla Ahnのデビューアルバムに収録された今作は、映画『ブライダル・ウォーズ』の劇中歌でもある。MVは、彼女がギターを弾きながら歌う姿をモノクロで映すシンプルなもの。視覚情報が少ない分、「幼い頃夢見たことがたくさんあったけれど、たくさんの物語を生きた今、その人生を手放す覚悟ができている。」という歌詞が際立つ。彼女の出発点であり、何度でも立ち返って聴きたい一曲だ。

Fine On The Outside(2014)

スタジオジブリ制作『思い出のマーニー』の世界観を表したこの楽曲では、Priscilla Ahnの心象を汲み取る力に驚かされる。ひとりでいることを優しく肯定し、物事の外側にいても大丈夫だと歌う彼女の声を聴くと、自然と涙が溢れてくる。是非、『思い出のマーニー』を観た後に聴いてほしい一曲だ。

まとめ

いかがだっただろうか。

今、アメリカの音楽シーンには素晴らしい女性シンガーソングライターが数多く活躍している。アーティストたちが自身と向き合い制作し続ける楽曲の中には、必ず自分に寄り添ってくれる作品があるはずだ。是非、これを機に多くのアーティストを見つけていってほしい。

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